されば私は自分の生き血をしぼるようにして私(わたくし)小説を書いて来た。
「三島由紀夫賞受賞の言葉」平成5年
平成の世に現れ、「最後の私小説作家」と呼ばれた姫路出身の直木賞作家・車谷長吉。その死からはや十年の時が経ちました。一語一語にこだわり抜いた鬼気迫る無二の文学世界は、今も多くのファンの心を揺さぶり続けています。
二十六歳のデビューから苦汁をなめつづけ、最初で最後のつもりで世に問うた作品集『鹽壺の匙』によって四十七歳にして一躍、文壇の注目を浴びた車谷。白洲正子や安岡章太郎らに高く評価され、江藤淳をして「文学をやっていて良かった」と言わしめた気骨と品格をそなえた車谷文学は、作家が歩んできた孤独で長く苦しい道のりにこそ、その神髄があるといえます。
このほど、妻で詩人の高橋順子さんより、東京都文京区の終の住処「蟲息山房」に作家が残した遺品が当館に一括寄贈されることとなりました。遺愛の品々に加え、蔵書は約千冊、ノートやメモ、原稿類は約五百点、書簡類は約二百点にのぼります。
本展では、これらの膨大な資料により、生真面目でわがままで臆病で虚栄心ばかり強かった「車谷嘉彦」という少年が、いかに反時代的精神を背負った文士・車谷長吉として屹立していったのかをひもときます。自らが経験してきたあらゆる「実」を小説としての「虚」が破り、あの独自の作品世界が完成するまでの長い物語。また、「毒虫」を自称した異形の作家像や作品世界とは異なる、少年のような繊細さと純粋さを秘めたその実像にもせまります。虚実が恐ろしいほどに巧みにからみあった禁断の「車谷ワールド」をどうぞ存分にお楽しみください。
車谷長吉プロフィール
本名・車谷嘉彦 昭和20年(1945)飾磨市下野田(現在の姫路市飾磨区下野田)に、4人きょうだいの長男として生まれる。双葉幼稚園、飾磨小学校、飾磨中部中学校、市立飾磨髙等学校を経て、慶應義塾大学文学部独文科卒業後、広告代理店・中央宣興に就職するが25歳で辞職し、小説を書き始める。26歳の時、「なんまんだあ絵」でデビュー。30歳の時、東京での作家生活が破綻し、故郷へ戻る。以後7年間、料理屋の下働きをしながら、関西各地を転々とする生活を送る。36歳で発表した「萬蔵の場合」が、芥川賞候補となり、38歳で再び作家となる覚悟を決め上京。47歳で上梓した初の作品集『鹽壺の匙』(平成4年 新潮社)で、平成5年(1993)、第43回芸術選奨文部大臣新人賞と第6回三島由紀夫賞をW受賞。48歳の時、詩人の高橋順子と結婚。平成9年(1997)、『漂流物』で第20回平林たい子賞受賞。平成10年(1998)、53歳の時「赤目四十八瀧心中未遂」で第119回直木賞を受賞。平成13年(2001)、「武蔵丸」で第27回川端康成文学賞受賞。平成15年、荒戸源次郎監督により「赤目四十八瀧心中未遂」が映画化され、その年度の映画賞を独占した。平成22年(2010)、『車谷長吉全集』3巻(新書館)を刊行。平成27年(2015)5月17日、誤嚥による窒息のため急逝。69歳。
展覧会概要
会期
令和7年(2025年)4月19日(土曜日)から6月22日(日曜日)
休館日
月曜日、5月7日(水)
- ただし、5月5日(月・祝)は開館
会場
姫路文学館 企画展示室・特別展示室(北館)
観覧料
一般800円、大学生・高校生460円、中学・小学生220円
- 身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳の交付を受けた方(手帳またはミライロID手帳画面を提示してください)及び介護者1人は半額
- 20名以上の団体は2割引
- 常設展示も観覧可
開館時間
午前10時から午後5時(入館は午後4時30分まで)
主催
姫路文学館
後援
朝日新聞姫路支局、NHK神戸放送局、神戸新聞社、産経新聞社、サンテレビジョン、播磨時報社、播磨リビング新聞社、姫路ケーブルテレビ、姫路シティFM21、毎日新聞姫路支局、読売新聞姫路支局、ラジオ関西
関連イベント
- 会場はすべて、姫路文学館講堂(北館3館)。
- いずれも開始の1時間前に開場。
- 展覧会の半券が必要な場合は、使用済み半券も可能。
高橋順子・前田速夫対談「私だけが知っている車谷長吉。」
日時 4月19日(土曜日)午後1時30分から3時
定員 200人(当日先着順・展覧会の半券が必要)
展示解説会
講師 竹廣裕子(当館学芸員)
1回目「誕生から料理人時代の終わり(37歳)まで」
日時 5月17日(土曜日)午後1時30分から3時
定員 150人(当日先着順・自由参加)
2回目「再上京後の作家活動(38歳以後)」
日時 6月7日(土曜日)午後1時30分から3時
定員 150人(当日先着順・自由参加)
「抜髪(ぬけがみ)」朗読会
出演 小林みね子(劇団プロデュース・F)/福本聖美(パーカッション)
全編母の播州弁のみで綴られた伝説の作品を地元の役者さんの朗読でご堪能ください。
日時 6月21日(土曜日)午後2時から3時30分
定員 150人(当日先着順・展覧会の半券が必要)